12. 白夜の太陽
ヌスネスからファールン方面(南東)を目指し、国道80号を南東に向かっていた。帰途につこうとしていたのだが、泊まる宿をまだ決めていない。あるいは、このまま車中に寝ようかとも思案していた。
黄昏を過ぎ、柔らかい夕陽が後ろから射してきて、バックミラー越しに私の目を射った。正に「太陽を背に受けて Sunshine on My Shoulders」( Song by John Denver)といった感じのドライブであり、何より穏やかな気分になれる一時だ。
思わず車を止めて振り返り、しばらくその空をながめていた。白夜の国の夕陽がこれほどまでに気持ち良いものとは想像にも及ばなかった。
けれどもこの時、太陽が沈む方角が何か変だな、とはまだ気付いていなかった。
さて、北欧の夕陽が沈むのを見とどける頃になると、時刻はすっかり夜更けとなる(たぶん午後9時か10時頃)。
ファールン付近まで舞い戻ってはみたけれど、この時間では宿泊のあてもない。仕方なく路上に車を停めて眠っていた私は、深夜、巡回警官のライトに起こされた。「ここで寝てはいけない!」と叱られ、やむなくアルフタに向かって再び車を走らせることにした。(※ ちなみに、スウェーデンでは1分以上のアイドリングは厳禁! エアコンをかけての路上駐車などもっての外だ。“道路交通 法”のみならず“環境保護法”においても、日本人はいかに非常識かという悪評をあちこちにばらまいてしまった。しきりに反省する)
ほどなく前方から太陽が昇ってきた(たぶん午前3時か4時頃)。ひどく美しい。「古代の人々が太陽を崇め信仰した気持ちが分かるなぁ……」などと独り言を言う。
車を路肩に寄せ、しばし周りの景色に陶酔した。この国の情緒的風情ともいえる斜め格子の垣根ごしに、朝もやをゆらゆらさせながら朝日を照り返す広大な畑が広がっている。“氣功”とか“生命波動”などという精神的現象は凡人の私には解し難く、そうした言い回しも好む方ではない。けれど、この時ばかりは “氣”のエネルギーが私の身体に流入してくるような幻想的錯覚に陥っていた。
しかし何か妙だぞ、私はほぼ真北に向かっているはずなのに、なぜ朝日の方に車が向いているのかが分からなかった。一本道で間違えるはずもなく、路側には国道294号の標識もある。でもおかしい。やはり道を間違えているのかと不安になった。
結果、無事に到着したので、そのことは忘れてしまっていたのだけれど、後日、偶然にトモコが言った。「白夜の時期、北スウェーデン(ノルランド地方)の太陽は、地軸の関係で北から昇って北に沈む」と。正確には、若干東あるいは西に傾いてはいても、ほぼ真北であると言えるほどなのだそうだ。
ダーラナあたりの地域は、まだ北スウェーデンとはいえないところだが、やはりその傾向があっての現象だったのだ。地球大自然の仕組みとは面 白いものである。
ちなみに冬はその逆で、太陽は南から昇って南に沈む。ただし、北欧の冬の昼間は午前10時頃から午後3時くらいまでのわずか5時間ほどしかなく、しかもそのほとんどが曇天で、冬の間中、人々は皆暗い気持ちで時を過ごす。その分、白夜の夏にはじけるというわけだ。
目次
(※青色のページが開けます。)
プロローグ
第一章 旅立ちの時
- ストックホルムの光と影
- この国との出会い
- 晴天の雲の下
- バックパッカー デビューの日
- 袖すれあう旅の縁
- 百年前の花屋は今も花屋
- 郷愁のガムラスタン散歩
- バルト海の夕暮れ
- 船室での一夜
- これぞ究極のアンティーク
- 古(いにしえ)の里スカンセン
- 過信は禁物-1[ストックホルム発・ボルネス行 列車での失敗]
- そして タクシー事件
第二章 解放の時
- 森と湖の都ヘルシングランド
- 森の木に抱かれて
- 静かなる自然の抱擁
- 小さな拷問
- 私は珍獣パンダ
- ダーラナへの道-左ハンドルのスリル-
- Kiren
- 故郷の色"ファールン"
- ダーラナの赤い道
- ダーラナホースに会いにきた
- ムース注意!
- 白夜の太陽
- 過信は禁物-2[ボルネス発・ルレオ行 またも列車での失敗]
第三章 静寂の時
- 北の国 ルレオでの再会
- 雪と氷のサマーハウス
- 白夜の国のサマーライフ
- 焚き火の日
- ガラクタ屋とスティーグ
- ミスター・ヤンネ と ミセス・イボンヌ
- 田んぼん中の"ラーダ"
- 中世の都 ガンメルスタード
- 余情つくせぬ古都への想い
- 流氷のささやきに心奪われ
- 最後の晩餐-ウルルン風-
- 白夜の車窓にて
- ストックホルムのスシバー
- 旅のおまけ["モスクワ"フシギ録]
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