7. 郷愁のガムラスタン(旧市街)散歩
(前半省略)
ここには、古くは13世紀ころに建てられた建造物さえ残っており、なによりも、そうした世界遺産が現在もなお店舗やレストランとして当たり前のように使われ、人々が行きかっているのが面 白い。そして、夜になり薄明かりが灯れば、まさにタイムトリップでもしたような不思議な気分になってしまうところだ。
何気なく入った画廊で、私の足を何者かがここへ向かわせた理由が分かったような気がした。今、目の前にいる彼女と、私は5年前に会っている。そして、この絵にとても感動させられたのを鮮明に覚えていた。あの時、彼女はまだ無名の画家であったらしく、裏路地にある古いビルの地下にいた。
あの時も今と同じように、私はふらりとそこへ来た。彼女の絵はとても美しく、かつユニークであり、流木の板切れにアクリル絵具で、海や山そして鳥や魚などの自然のままの風景を描くのだ。それが今もここに掛けられている。「私を覚えているか」と聞くと、当然のように覚えていないと言われた。それでも「5年前に私はあなたに会い、この絵を見た」と伝えると、彼女はニコリと頷き、とても喜んでくれた。もう一度「私を覚えているか」と聞いてみたけれど、やはり思い出せないとすまなそうに応えた。
彼女の絵は以前と全く変わっていないのに、値段だけは一層高くなっており、やはり今の私でも買うことをちゅうちょした。残念ではあるが、買い物や物見遊山が目的の旅ではないので仕方がない、と自分に言い聞かせた。
もし言葉が通じたなら、彼女の苦労話の一つも聞かせてもらいたいものだと思った。彼女の夢がどこにあるのかは知らないけれど、おそらくは、それに少し近づいたであろうことを祝し、私は小さな絵を一枚買った。それを、店の傍らでみつけた古い額に入れてもらいながら聞いてみると、ガムラスタンの石畳の街並風景を描いたその絵は、彼女の作ではなく彼女の友人が描いたものであることが分かった。しかし、それでもその小さな絵は、二つの想い出をつなぐ良い土産になると思った。
(後半省略)
※豆情報-5
スウェーデンの酒類販売は「システムボーラゲット」という専売公社の独占とされているので、アルコール度数が4%を超えるものは総べてそこへ行かなければ手に入らない(国営の専売公社だから、当然日曜は休みになる)。しかし、2.8%とか3.5%という低アルコールのビールならば町のコンビニで買える。
夕方、のどが渇いた私はセブンイレブンで3.5%のビールを買った。スウェーデンのコンビニは、店の中や外に軽食を楽しめるベンチコーナーがあるのでとてもありがたい。しかも、外のそれはオープンカフェのような感じで若者たちが自由に憩っている(日本のコンビニ前でよく見かける、“ヤンキーずわり”のむさい野郎たちの溜まり場となっているイメージとは大違いだ)。私は、レジ横の椅子に腰掛け、ビールの缶をシュッと開けた。すると、すかさず店員が跳んで来て、ここでビールを飲んではいけないと言う。保健衛生上の問題で店内はまずいんだなと思い、外のベンチに座を移った。ところが、また同じ店員が来て、一層強い表情で私を叱りつけた。何なんだこれは……。ハンバーガーやジュースは良いけれど、アルコールはいけないということのようだ。私は一緒に買ったパスタだけをさっさと平らげ、ビールをペーパーバックに戻し、すごすごとその場を立ち去った。公園のベンチに腰を落ち着け、再びビールに口を付けた。ちょっと侘びしい思いがした。
実は、公園のベンチでさえも警官に注意されることが時々あるらしい。スウェーデン人は基本的には酒好きな国民性なのだが、屋外での飲酒はあまり感心されず、毎日のように多量 の酒を飲んで泥酔するような奴は思いっきり嫌悪されるそうである(どうやら、私はスウェーデン人になれないようだ……)。
目次
(※青色のページが開けます。)
プロローグ
第一章 旅立ちの時
- ストックホルムの光と影
- この国との出会い
- 晴天の雲の下
- バックパッカー デビューの日
- 袖すれあう旅の縁
- 百年前の花屋は今も花屋
- 郷愁のガムラスタン散歩
- バルト海の夕暮れ
- 船室での一夜
- これぞ究極のアンティーク
- 古(いにしえ)の里スカンセン
- 過信は禁物-1[ストックホルム発・ボルネス行 列車での失敗]
- そして タクシー事件
第二章 解放の時
- 森と湖の都ヘルシングランド
- 森の木に抱かれて
- 静かなる自然の抱擁
- 小さな拷問
- 私は珍獣パンダ
- ダーラナへの道-左ハンドルのスリル-
- Kiren
- 故郷の色"ファールン"
- ダーラナの赤い道
- ダーラナホースに会いにきた
- ムース注意!
- 白夜の太陽
- 過信は禁物-2[ボルネス発・ルレオ行 またも列車での失敗]
第三章 静寂の時
- 北の国 ルレオでの再会
- 雪と氷のサマーハウス
- 白夜の国のサマーライフ
- 焚き火の日
- ガラクタ屋とスティーグ
- ミスター・ヤンネ と ミセス・イボンヌ
- 田んぼん中の"ラーダ"
- 中世の都 ガンメルスタード
- 余情つくせぬ古都への想い
- 流氷のささやきに心奪われ
- 最後の晩餐-ウルルン風-
- 白夜の車窓にて
- ストックホルムのスシバー
- 旅のおまけ["モスクワ"フシギ録]
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