一番になりたい症候群
アメリカ人の多くは、兵士であること、戦場で闘うことを何よりの誇りとし、それを愛国心であると信じて疑わない。その理由は、合衆国国歌「星条旗よ永遠なれ」の歌詞の中に見つけられる。
〝♪ 砲弾の音がとどろく戦場に、星条旗は耐え、ひるがえる……〟 。
そう、彼らにとり国家の象徴は戦争を抜きにしては語れないのだ。それは、哀しいかな、建国以来長い歴史の中で深く心に染み付いてしまった自国への我執だ。戦争を肯定し讃えようとする、妙な文化(哲学)があそこにはあるようだ。
そう言えば、イラク戦争が便宜上終結した翌月、突然来日して勝手放題のことを言って帰っていった、米・前国務副長官、アーミテージ氏の言葉には心底腹が立った。まるで(イタリアの独裁者)ムッソリーニのような、あの威圧感たっぷりの態度と憎々しい顔つらでよくも言ったものだ。「一九九一年の湾岸戦争の時は、日本は巨額の金を払って観客席でのんびりと野球観戦を楽しんでいた。ピッチャーマウンドに昇れとは言わないが、今度は日本もフィールドに出て共に戦うべきだ。さぁ、旗を見せろ!」。私は驚いてしまい、あんぐりと開けた口を暫時(ざんじ)とじることができなかった。よく記者席から石を投げつけられなかったものだと呆れてしまう。
(中略)
老子の説教に「功成而弗居、夫唯弗居、是以不去……云々」という言葉がある。それに対する難解で長い意訳文を勝手にはしょり、さらに少々我見を交えて推考すると概ね以下のようになる。
「勝ち誇るな、されば誰もあなたを打ち負かさず、自ずとあなたの勝利となるだろう。しかし、常に忘れてはいけない。谷があるから丘ができ、愚者がいるから賢者は賢者たらんことを。もしもこの地が丘ばかりで、人々は皆賢者であったならば、それはきっと空しいだけの世界となるであろう。だから、どちらか一方を選んではいけない。総ては互いに補い合って成長するべき相互依存の関係にあるからだ。
悪や醜にさえ目的があるから存在するのだ。両方がここにあることを認め許しなさい。それが調和(ハーモニー)となり、交響楽(シンフォニー)を創り出す。あくまで悪を否定し醜を拒絶するなら、そこには必ず争いが起こる。
もしも、あなたの行く道程に石があったとしても、決してそれを拒絶せず踏み石にして歩いて行けばよい」。
まさに、自国を「神から祝福された国」と驕り称し、道端の石を蹴飛ばしながら闊歩する大国の 頭領、ブッシュ氏 にリボンでも付けて贈りたいような名講義ではないか……。
目次Contents
プロローグPrologue
第一章「戦争を見つめる」
- 原爆の爪痕 長崎原爆資料館にて
- 広島の黒い空
- 赤と黒だけの世界
- 悲惨な戦争
- 扉は必ず開かれる
- ケネディの遺言
- 共感共苦
- ソクラテスの憂鬱
- 一番になりたい症候群
- 天下の御意見番
- 大地の子
- 何ゆえの犠牲
- 鍬と胸飾と笛
第二章「平和を考える」
第三章「未来(あす)を望む」
- 平和への入口
- 音楽が伝えるもの
- 心のとまりぎ 安曇野平和芸術館の構想
- 泣けることの幸せ
- 無量の感謝
- 心の蘇生
- フラワーチルドレン
- あなたへ花を捧げたい
- 命こそ宝(ヌチドゥタカラ)
- 打ちそこねた終止符
- 炭坑のカナリア
- すれちがう言葉
- 確かな言葉
- 歓喜(よろこび)の歌
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