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共感共苦

 侵略と防衛……、この言葉は全く違った意味のようであり、紙一重で隣り合わせになった同義のようでもある。兵士たちはその狭間に葛藤し、祖国あるいは家族を守るためだという意識のみに支えられ、それゆえの〝死〟や〝殺〟に価値があると信じようとする。
 しかし、結局は〝戦う〟という共通する一事においては、いずれも相手への攻撃を伴うものであり、自己の価値観を正当化させた途端、他者を破壊せしめるのだという不条理。

(中略)

 いつであったか、私の友人がこんなことを言っていた。「人の喜びは最近ようやく分かるようになってきた。人が喜ぶ顔を見るのは自分も嬉しいからね。でも、人の痛みや苦しみ悲しみというものは分かってあげることが難しい。僕は、人の痛みや悲しみを本当の意味で肌身にしみて分かることの出来る人になりたいと願っている。いま僕はそのことを考えている……」。その時、私は何も言うことができなかった。自分だってそうなのだから。でも、その他人というのが、自分の肉親であればどうだろうか。少しは分かるような気がするはずだ。
 幼い子供が風邪をひいてゼェーゼェーと苦しそうに唸っている。母は子供の背中をさすりながら「苦しいね、可哀想だね……」と言ってあげるよりない。どんなに願っても、その苦しみを自分が代って感じてあげることはできないのだ。だから母は、それがかえって辛く、ただおろおろと泣いている……。

(中略)

 人の痛みを想うということは、単純に言えばこういうものではないだろうか。共に苦しみ共に泣く「共感共苦」できるということだと思う。

(後半省略)

目次Contents

プロローグPrologue

第一章「戦争を見つめる」

  1. 原爆の爪痕 長崎原爆資料館にて
  2. 広島の黒い空
  3. 赤と黒だけの世界
  4. 悲惨な戦争
  5. 扉は必ず開かれる
  6. ケネディの遺言
  7. 共感共苦
  8. ソクラテスの憂鬱
  9. 一番になりたい症候群
  10. 天下の御意見番
  11. 大地の子
  12. 何ゆえの犠牲
  13. 鍬と胸飾と笛

第二章「平和を考える」

  1. 旅の途上
  2. 長崎の空に想う
  3. 売らない作家
  4. 備前の土と一期一会
  5. 広島の青い空
  6. 1900通の未練
  7. 非競争の論理
  8. 仰ぎ見る空
  9. 弱く優しき者
  10. 大和魂
  11. 優しさの代償
  12. 聖戦の果て
  13. 恨み 戦後60年の日に想う
  14. 風月同天(ふうげつどうてん)
  15. 戦いのトラウマ

第三章「未来(あす)を望む」

  1. 平和への入口
  2. 音楽が伝えるもの
  3. 心のとまりぎ 安曇野平和芸術館の構想
  4. 泣けることの幸せ
  5. 無量の感謝
  6. 心の蘇生
  7. フラワーチルドレン
  8. あなたへ花を捧げたい
  9. 命こそ宝(ヌチドゥタカラ)
  10. 打ちそこねた終止符
  11. 炭坑のカナリア
  12. すれちがう言葉
  13. 確かな言葉
  14. 歓喜(よろこび)の歌

エピローグEpilogue

著者背景


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