8. 故郷の色”ファールン”
キレンの案内で、早速目当ての「ファールン鉱山博物館」へ出かけることにした。彼女はすでに観たそうなのだが、その時は眼鏡を忘れてきていてはっきり見えなかったので、もう一度来られてちょうど良かったと喜んだ。
銅山の坑道内が一般公開されている。入場料は一般で64クローネ、学生である彼女は30クローネだ。ところが、彼女はなかなか頼りになる。彼女が英語で交渉すると、30分ほど待つと団体客が来るので、それと一緒に入れば同じ値段にしてくれると言うのである。それで17クローネ(200円ちょっと)になった。こんなに簡単に4分の1程度の値段にダンピングできてしまったことにはビックリした。やはり英語という代物は実に便利なものだ。「英語が話せれば百万人と友達になれる!」とどこかの英会話教室のコマーシャルで言っていたのは、どうやら本当のようだ。
(中略)
坑道のトンネルを抜けると、まるで鍾乳洞のように広い空間が広がっていた。ここは、何世紀にもわたり人の手で掘られた人工採掘の跡だ。背の高い男が英語で説明をしてくれている。なんと昔の鉱夫たちは、松明(たいまつ)の束に棒を刺し、それを口にくわえながら作業をしていたのだそうだ。だから彼らの眉毛は、いつも焦げてチリヂリであったという。まったく、キレンがいなかったら、いったい何を見に来たのか全然分からずに帰ってしまうところであった。
ところで、先にも触れたが、私は鉱山そのものや展示されている鉱物などよりも、ここで取れる顔料(塗料)に興味がある。言うなれば、鉱物資源の副産物、悪く言えば粕のようなものであろうけれど、私にとってはそっちの方が主なのだ。私が初めてスウェーデンを訪れた1994年にこれを知った時から、ずっとここに来れることを望んでいた。すでに廃鉱となったファールン鉱山から今もなお産出される“ファールンペイント”、私は特に“ファールンレッド”と呼ばれる赤に魅せられていた。その色は決して鮮やかな赤ではなく、かと言ってくすんだ赤茶でもない。まさしくファールンレッドとしか表現のしようのない心地よい趣きを持っているのだ。
(中略)
スウェーデンの人たちにとって、故郷の色と言っても過言ではないだろう。
目次
(※青色のページが開けます。)
プロローグ
第一章 旅立ちの時
- ストックホルムの光と影
- この国との出会い
- 晴天の雲の下
- バックパッカー デビューの日
- 袖すれあう旅の縁
- 百年前の花屋は今も花屋
- 郷愁のガムラスタン散歩
- バルト海の夕暮れ
- 船室での一夜
- これぞ究極のアンティーク
- 古(いにしえ)の里スカンセン
- 過信は禁物-1[ストックホルム発・ボルネス行 列車での失敗]
- そして タクシー事件
第二章 解放の時
- 森と湖の都ヘルシングランド
- 森の木に抱かれて
- 静かなる自然の抱擁
- 小さな拷問
- 私は珍獣パンダ
- ダーラナへの道-左ハンドルのスリル-
- Kiren
- 故郷の色"ファールン"
- ダーラナの赤い道
- ダーラナホースに会いにきた
- ムース注意!
- 白夜の太陽
- 過信は禁物-2[ボルネス発・ルレオ行 またも列車での失敗]
第三章 静寂の時
- 北の国 ルレオでの再会
- 雪と氷のサマーハウス
- 白夜の国のサマーライフ
- 焚き火の日
- ガラクタ屋とスティーグ
- ミスター・ヤンネ と ミセス・イボンヌ
- 田んぼん中の"ラーダ"
- 中世の都 ガンメルスタード
- 余情つくせぬ古都への想い
- 流氷のささやきに心奪われ
- 最後の晩餐-ウルルン風-
- 白夜の車窓にて
- ストックホルムのスシバー
- 旅のおまけ["モスクワ"フシギ録]
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