悲惨な戦争
戦争が何故悲惨であるのか……、それは愛し合う者が愛することを許されない時代であるから……。生きるべき者が生きることを放棄しなければならない時代であるから……。大切にしていた物が全て散乱させられてしまう屈辱に耐え、それを諦めなければいけない時代であるから……。そして、女や子供という弱者が、犠牲の圧倒を占めるという理不尽が当然とされる時代であるから……。
〈腕を失くした少年の話〉
少年は道を歩いていてオモチャを拾った。
それを持ち上げたら爆発して、両腕を失くした。
それが地雷だなんて子供には分かりっこない。
子供たちは、なぜ自分がそんな目にあうのかが解からない。
戦争の理由も解からないし、敵が誰であるのかも知らない。
そして何より、平和を知らない……。
〈父と母と姉を亡くした少女の話〉
生まれてこのかた戦争しか知らなかったある少女の悲しみを描いた、アフガニスタンの「オサマ」という映画(邦題〈アフガン零年〉。監督〈セディク・バルマク〉)が、2003年度カンヌ国際映画祭におき三部門の賞をとった。その撮影現場でのある日、監督は少女に「悲しい目をした表情をつくってくれ」と言った。そう言われた少女は、何故だか本当に泣き出してしまった。「泣くのではなく、悲しい目をするだけだ」と諭す監督の言葉にも反し、少女の涙はいつまでも止まらない。戦争という理不尽な悪魔に殺された、家族のことを思い出していたのだ。
〈母の涙を見た少女の話〉
戦火に散ったあるパレスチナ人少女の日記である……。
例えば医者になりたい あるいは作家になりたい
誰でもが皆 夢をもっている
私にも小さな夢がある
それは 平和
子供を亡くした母の悲しむ顔を二度と見たくないから
私たちは沢山の戦争を見てきた
でも 平和は知らない
けれども まだ希望は捨てない
(中略)
こうした状況を尻目にして、今アメリカには 「戦争屋」なる職業の連中が多くいるらしい。彼らは民間軍事兵(通称 PMC=プライベート・ミリタリー・カンパニー)と呼ばれ、主に退役軍人から構成される人材派遣会社の社員たちだ。米軍の下請けとして実際に戦場へ趣いて戦い、あるいは新兵の軍事教練などをするのみならず、アメリカと軍事協定をむすぶアフリカや中東諸国の軍隊から、顧問料のような金をもらって軍事指導を行うこともある。そしてこの連中、イラクや中東各地の紛争が激化する今も、ここぞとばかりに荒稼ぎを続けている。
その様子をテレビの画面で観たけれど、連中の多くは、命がけの戦争ごっこを何処かで楽しんでいるような節があるのではないかといった印象すら受け、実に胸が不快になった。しかも、その軍事会社の社長は、「テロのお蔭で随分と稼がせてもらっているよ……。この地球から戦争が無くなることは永遠にないさ!」と、不適に笑った。
何という不心得な奴らだろうか。人により価値観が異なるのは仕方ないにしても、戦争意識を尻からあおるような、こういう輩やからだけは許したくない。
もっとも奴らにすれば、戦争がなくなれば飯の喰いっぱぐれというわけだろうが……、それにまた、営業ライセンスを公布しているアメリカという国もやはり変だ。
原爆を発明し世に送った天才物理学者アルバート・アインシュタインは、その恐るべき怪物を生み出してしまった自らへの言い訳けに、「自分ないしは家族の命が怪ぶまれた時こそ、人は戦争を肯定して戦うことを許される」と言って自虐の心を静めようとした。しかし、その晩年、「戦争絶対悪」の言明と共に前言を撤回し、自分が開発した原爆により、多くの日本人の命を奪ってしまったことへの自責に苦しみつづけた。
また、終戦後日本に駐留したダグラス・マッカーサーは、やはりその晩年におき「もしあなたが命を尊とび、生き残りたいと望むなら、いずれ私たちは戦争廃絶という道を選択しなければならない」と語り、戦いに明け暮れた我が青春の空しさを振り返っている。
この通り、心ある者はみな「目には目を」 の戦いの繰り返しでは何も解決されないことに気づいている。そうでなければ、いつか人類は滅亡という一途をたどることを知っているからだ。
目次Contents
プロローグPrologue
第一章「戦争を見つめる」
- 原爆の爪痕 長崎原爆資料館にて
- 広島の黒い空
- 赤と黒だけの世界
- 悲惨な戦争
- 扉は必ず開かれる
- ケネディの遺言
- 共感共苦
- ソクラテスの憂鬱
- 一番になりたい症候群
- 天下の御意見番
- 大地の子
- 何ゆえの犠牲
- 鍬と胸飾と笛
第二章「平和を考える」
第三章「未来(あす)を望む」
- 平和への入口
- 音楽が伝えるもの
- 心のとまりぎ 安曇野平和芸術館の構想
- 泣けることの幸せ
- 無量の感謝
- 心の蘇生
- フラワーチルドレン
- あなたへ花を捧げたい
- 命こそ宝(ヌチドゥタカラ)
- 打ちそこねた終止符
- 炭坑のカナリア
- すれちがう言葉
- 確かな言葉
- 歓喜(よろこび)の歌
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